会社に殺される

私は会社に殺されそうだ
今まで我慢を重ねてきたけど
私は会社に殺される
今にも心は風船のように膨らみ爆発しそうだ

社会人になって十年
私はガムシャラに頑張ってきた
仕事が出来ない人間に思われたくなかった
だからガムシャラに頑張ってきたのだ
出世欲はなかったけれど
将来の自分のためと思って
ここまでしなければいけないのかと思いながらも
何でも断らずにやってきた

どこの部署に行っても
どのポジションに着いても
次から次へと仕事は増えて
いつでも残業は当たり前
一人二人と帰った後
気がついたら事務所の鍵を締めて帰る生活
それでも若かったから
意地とツッパリでやってこれた

でも ふと気がつけば
私と同世代の人達は次々に昇格し
私は今でもヒラ社員のまま
自分なりに精一杯やってきたけど
見えない人事は私を足りないと評している

私は下っ端だから
上の人をこき使えないから
意地でも自分で出来ることは頼らずにしてきたつもりだ
でも そんな私のことを周りは知らん振り
自分さえよければいいのだろうな
そう諦めてツッパって今までやってきた

でも私が出来ることにも限界がある
もう気持ちが先走っても
頭と体は麻痺寸前である
ロボットのように
何の感情も起こさずに
機械的に仕事をしろというのか

朝から晩まで休む間もなく
100パーセント以上の力で働き
それでも全然足りなくて
怒られはするけど褒められはせず
いったい会社は私を何だと思っているのか
私はロボットではない
人間だ
人間だから
全てを完璧にできる訳がない

私は殺される
安定した生活と引き換えに
私は会社に
殺される…

お前
言いたかったことはそれで全てか
気が済んだなら もう仕事を終わらせて
これから一緒に飲みにでも行こうか

愛情おすそ分け

しばらく恋愛してないから
恋する心が錆びちゃった
このまま老けるのイヤだけど
無理な出会いもぎこちなくてイヤだ
グラスに満ちる透き通った赤
バーのママが注いでくれたワイン
ワインと一緒に愛情を
あなたのグラスにおすそ分け

しばらくテレビ見てないから
笑う感性が錆びちゃった
昔のテレビは大笑いできたのに
なんて言葉が出たら もう老けた証
お皿に満ちる色とりどりの野菜達
バーのマスターが出した具沢山スープ
スープと一緒に愛情を
あなたのお皿におすそ分け

いつまでも夢が叶わないから
生きる気力が錆びちゃった
今更新しいこと始めてもね
諦めが悪いって損なのか得なのか
心に満ちるいやしと安らぎの歌声
バーのママが歌ってくれたシャンソン
歌と一緒に愛情を
あなたの心におすそ分け

はちみつレモンを欲しがって

三度の骨折にも負けず
肺炎にも負けず
インフルエンザで入院し
退院後に自立歩行が出来なくなっても
押し車を使い自分で歩こうと頑張り
貧血で入院し
退院後に自力でお風呂に入れなくなり
ヘルパーの介助でお風呂に入るようになっても
元の体に戻ることを諦めなかったあなた
リウマチで自由が効かない右手なのに
無理して動き左肩を骨折し
ひとりでの生活が困難になり
ショートステイの予定で施設に入る
腸閉塞にも不整脈にも負けず
栄養不足で酸素吸入が始まった時は
命の心配もしたけれど
大好きなマグロの中トロやアジフライを食べて
見事に回復したあなた
再び腸閉塞と不整脈で入退院を繰り返しても
心臓にペースメーカーを入れ生き延びたあなた
そしてついに初期の認知症状が始まり
その影響で食事が取れず腎不全で入院し
先生から老衰かもしれないと言われても
点滴で驚異的に回復し食欲も元に戻ったあなた
幸いその後は認知症状も大きく進行せず
一時は成立しなかった意思疎通も
簡単な会話ができるまでに戻り
内職のつもりでティッシュにゴムを巻くあなた
そんな波乱なこの十年を越えて
あなたはついに米寿に辿り着いた
あれだけ世話好きでしっかり者だったのに
この十年でいろいろな生命の危機に晒された
そして乗り越えた
人は健康で元気な時は
いろいろなことが当たり前に出来るけど
それが当たり前でなくなる時が
じわりじわりとやってくる
いつまでも健康で元気でいたいのは
誰もが思うことだけど
時の流れは無常で
いつしか人は老いていく
いつしか人は弱くなっていく
どんなにカクシャクとしていても
それが永遠に続く訳ではない
だから健康で元気でいろいろ出来る自分って
かけがえのない財産なのだ
ショートステイのつもりが
長期入所になってしまった施設で
前の自分に戻ろうと
尋常じゃない生命力で頑張っているあなた
これを飲むとお通じがいいと
大好きで飲んでいるはちみつレモン
施設で急に販売機に置かなくなったから
ネットで取り寄せ差し入れる私
いいよ
ワガママを言っていいよ
どんどん欲しがってよ はちみつレモンを
ワガママを言うあなたに安心する私
ワガママすら言えなくなって
何も意思表示をしなくなって
食事すら取らなくなるあなたを
私は見たくないから
好きなもの 愛しいものは
いっぱいあった方がいい
いっぱいあった分だけ
生きている張り合いになるから
はちみつレモンを差し入れる私に
電話でありがとうと言ってくれるあなた
ずいぶん優しい声になったね
ピンピンしていた時には聴いたことがない
人生を達観しなければ出せないような
優しい声になったね